2020年、春節前のことである。

2020.02.25

新型コロナウイルスによる感染症が確認された初期の段階で、
中国の当局は情報を隠し、告発者を「デマの発信源」と名指しで批判した。
そして武漢から情報発信したジャーナリストは姿を消した。

こうした情報統制や役人の保身などに起因する初動の遅れこそが、新型ウイルスの感染拡大を招いた。
春節休みの時期だった中国において、超過勤務を続けていたのは病院のスタッフだけではなかった。
警察も体制を強化する必要性が生じていたのだ。

当局の職員はウイルスについて上層部に報告しただろうが、その重大性を甘く考えていたようにも見える。
叱責を受けたり、対応能力がないとみなされたりすることを恐れていたのだろう。
口をつぐんで静かにしているというのが、その基本的な姿勢である。
このため旧正月を前に、国営メディアは年に一度の伝統行事をいつも通りに祝い、
40,000人が武漢の街中に料理を持ち寄って宴を繰り広げていた。
中国全土で企業が祝賀行事を催していたが、中止を考えるほど新型コロナウイルスが深刻であるとは思っていなかった。

政府による情報統制のために、デマが広がる余地が生まれた。
検閲機関は政府の情報統制に対する批判を集中的に取り締まる。
「ほかの街も封鎖される」「野菜の値段が急騰している」といった噂が氾濫して
パニックや買いだめにつながり、政府の情報源にも圧力がかかっている。
国営メディアは「双黄連口服液」という薬を推奨しており、ウイルスの症状に効果があると報道した。
薬は売り切れたが、虚偽のニュースだとする医師もいる。
人々はほかの情報源に頼るのみならず、発表があるたびに過剰反応している。
武漢は新型コロナウイルスに対してまったく体制が整っていなかった。

中国では医師に対する信頼が一般的に低い。
このため今回の公衆衛生の危機がさらに深まっている。
多くの中国人は、本当の必要性を感じない限り病院へ行くことはない。
人々は医者が自分たちをだましていると感じているからだ。

いま中国は、新型コロナウイルスに対する勝利を宣言しようと躍起になっている。
地方政府は症例をできる限りゼロに近づけ、退院した患者数を増やすよう大きな圧力をかけられている。
北京の中央政府が事態解決に乗り出してから、途方もない仕事をやってのけた。
それぞれが1,000床以上もある2つの病院が、わずか1週間で建設されたのだ。
さらに人口が5,850万人の湖北省を封鎖し、経済の中心地のひとつを切り離した。
低賃金労働者の多くはいまだに家族と過ごしており、ほかの街での仕事に戻れないでいる。

中国が全力を尽くしていることに疑いの余地はないだろう。
しかし、もし春節の行事の前の段階で、人々が新型コロナウイルスを周知されていればと考える。
いま中国の徹底的な対応を称賛している人々は、初期の決定的な遅れが死者や感染をもたらしたことを忘れるべきではない。