ウクライナ侵攻 後編

2022.04.18

ロシアが隣国ウクライナとの国境周辺に大規模な部隊を集結させています。
欧米からは来年初頭にも軍事攻勢をかけるのではないかという見方も出ていて、現地では緊張が高まっています。
その背景には何があるのか。そこには30年前に起きたある歴史的な出来事が大きく関わっていました。

ことし11月頃からロシア軍は大規模な部隊をウクライナの国境周辺に展開させる動きを見せています。その数、9万人以上とされています。
さらに12月に入ってアメリカの有力紙ワシントン・ポストなどは衛星写真をもとに、
ロシア軍がウクライナ周辺の4か所に部隊を集結させつつあり、アメリカ政府の分析として部隊を最大17万5000人規模にまで増強し来年、
2022年初頭にもウクライナに攻勢をかける可能性があると伝えたのです。
アメリカのバイデン大統領は12月7日、ロシアのプーチン大統領とオンラインで首脳会談を行い、
ロシア軍の部隊増強に深い懸念を示したうえで、ロシアが軍事的な攻勢に出れば経済制裁で応じると警告しました。

30年前までロシアもウクライナもソビエト連邦という国を構成する15の共和国の1つでした。
とりわけロシアと国境を接するウクライナ東部は16世紀からロシアの影響下にあり、ロシア語を話す住民が多く暮らしています。
ウクライナ東部とは民族や宗教も同じで歴史的なつながりが深いことから
ロシアは30年前のソビエト崩壊後もウクライナを“兄弟国”として特別な存在だと考えてきました。
一方、ウクライナ西部はかつてオーストリア・ハンガリー帝国に帰属し、宗教もカトリックの影響が残っていて、
ロシアからの独立志向が強く、同じ国でも東西はまるで分断されているようでした。
ロシアのプーチン政権はこうした状況を利用して東部のロシア系住民を通じて、その影響力を及ぼそうとしてきたのです。

それを知るカギは、30年前のソビエト崩壊という歴史的な出来事に伴う「NATO」=北大西洋条約機構の“東方拡大”です。
「NATO」はもともと東西冷戦時代に旧ソビエトに対抗してアメリカなどがつくった軍事同盟です。
しかし冷戦が終結し、ソビエト連邦が崩壊するとチェコやポーランドなどかつての“東側陣営”が次々にNATOに加盟。
さらに、旧ソビエトのバルト3国までもがNATO陣営に加わりました。
プーチン政権にとって冷戦時代、欧米と対じしたかつての超大国の勢力圏は徐々に失われ、
国防上の“防衛線”がどんどん迫ってきているとして脅威を感じているのです。
それに伴って旧ソビエトの盟主・ロシアの求心力も低下しています。
いまやEUやNATOの一員であるバルト3国を含め、ソビエト崩壊に伴って15の国が独立しました。
このうちウクライナ以外にもジョージアやモルドバなどで欧米寄りの政権が誕生し、NATOにも接近する姿勢を示しています。
また、「ロシアの裏庭」とも呼ばれた資源豊かな中央アジアのカザフスタンやトルクメニスタンは、
石油や天然ガスの輸出先として中国との結び付きを強めています。
こうした中で、プーチン大統領にとって特別な“兄弟国”ウクライナのNATO加盟だけは

「レッドライン=越えてはならない一線」

と、なっているのです。

2004年に行われたウクライナの大統領選挙では、プーチン大統領が2度も現地に乗り込み、
東部を支持基盤にロシア寄りの政策を掲げた候補をあからさまに応援するなど、
ロシアは、大統領選挙のたびに表面化する西部と東部の確執に関与してきました。
2014年に欧米寄りの政権が誕生すると、プーチン大統領はロシア系の住民が多く、
戦略的な要衝でもあったウクライナ南部のクリミアにひそかに軍の特殊部隊などを派遣。
軍事力も利用して一方的に併合してしまいました。
その1年後、プーチン大統領は当時、情勢が不利になった場合に備えて
軍に核兵器の使用も視野に準備を進めるよう指示していたことまで明らかにしています。
クリミア併合に続いて、ウクライナ東部ではロシアが後ろ盾となって支援する武装勢力とウクライナ政府軍との間で武力衝突がおき、
今も散発的に戦闘が続いているんです。
プーチン大統領はウクライナに軍事攻勢をかける意図はないと一貫して否定しています。
むしろロシアとの国境付近で緊張をエスカレートさせているのはアメリカなどNATOの加盟国だと批判しているのです。

20年以上権力の座に君臨するプーチン大統領の真意を知ることは不可能です。
しかし、その考えの一端をうかがい知る「論文」がことし7月、話題となりました。
論文はプーチン大統領自身が発表したということで、ロシア人とウクライナ人の関係について

「精神的、文化的な結び付きは何世紀にもわたって形づくられてきた」

と、同じ民族であることを強調しています。

そして

「ウクライナの真の主権はロシアとのパートナーシップがあってこそ保持できる」

と主張し、ウクライナをロシアの勢力圏に取り戻したいという強い意向をにじませたのです。

ロシアとウクライナの関係に詳しいウクライナ人の政治評論家、タラス・ベレゾベツ氏は、プーチン大統領の戦略について
「ウクライナ国内をできるだけ不安定にさせ、ウクライナ政府の政治的・軍事的な指導力を失わせることに重点を置いている。
 欧米寄りの政権の信用を失わせ、唯一生き残る方法はロシアとの同盟しかないと示したいと考えている」と分析しています。

12月7日、プーチン大統領はアメリカのバイデン大統領とオンラインで2時間首脳会談を行い、ウクライナ情勢を中心に議論を重ねました。
しかし、今のところ事態打開の兆しは見えていません。7年前のクリミア併合の“二の舞”は避けたい欧米諸国。
一方で、中国との覇権争いの中でロシアと軍事的に正面切って対じすることは避けたいのが本音のアメリカ。
そしてソビエト崩壊から30年を経て、影響力は低下しながらも勢力圏の維持をねらうロシア。
ウクライナの軍事的な緊張緩和に向けて、米ロの間では今後、高官レベルの協議が行われることになりますが、
プーチン大統領はアメリカ側の事情も見定めながら、したたかに次の一手を打ってきそうです。

豊洲市場も輸入野菜の高騰など徐々に影響を受けてきています。
早期解決を待ち望みます。